「星笠学園って、兄さんと姉さんが通っていた学園だよね?」
「そうよ、ちなみにこの学校は十二家の一つで『光』を司る白御風家が代々経営しているの」 唯はパンフレットのページをめくり、学園長の写真を見せた。禿頭のくたびれた中年がニヤついている写真だった。
「このハゲ頭から『光』の光線を出すのかなぁ?」
「失礼なことを言うんじゃないの」 注意しつつも唯の頭の中には禿頭から光線を出す学園長のイメージが写されていた。
「そもそも十二家は石を研究する学者の家系で、戦闘に使うために原石を所有しているわけではないの」
「政府はこのことを知っているの?」
「一部の人だけね、戦前は石の力で欧米諸国に対抗しようとしたらしいけど、実験の際、兵士達が石を使っていても全然力が発揮されなかったの、それで、十二家の学者達は信用をなくして研究を中断させられてしまったの」
「ふーん」
「しかし、この石には未知の力が在ると確信していた十二家は、協力して研究施設を建てたの、しかし、ただの研究所だと政府が許さなかったので、表向きは高等学校ってことにしたの、そこに子孫達を入学させて研究を手伝わせたの」
「じゃ、十二家は仲いいんじゃないの?」 圭介は礼羽家の人間の事を思い出した。
「その後、ちょっと事件が起こって・・・・・・」 唯は先程とは打って変わって真剣な表情でその後の歴史を語り始めた。
「こ、金剛石?じゅうにけ?」
「金剛石はダイヤモンドでしょ?光剛石だよ」 唯はポケットから先程見かけたのと同じような青い石を取り出した。
「これが全部で四種類ある光剛石の一つ、青卯石だよ」
「あとの四つは?」 圭介は青卯石をしげしげと見ながら尋ねた。
「緑午石、黒子石、赤酉石だよ」 唯は得意げに話した。
「この石と鎧はどんな関係が?」
「四つの石にはそれぞれ特殊な力が備わっているの、青卯石は人間の皮膚を硬質化させる『鎧』の力、緑午石には空気中の水分を原始的な武器、あ、剣とか槍とかのことね。に変える『剣』の力、黒子石はその石そのものがエネルギーとなり、使用者が出す「音」に乗せて光線のように打ち出す『光』の力、赤酉石は・・・・・・私はよく知らないのだけど、動物の爪や羽に力を与える『獣』という力が備わっているらしいの」
「・・・・・・姉さん、酔ってる?」
「むー、まだ私の話は終わってないぞ、そんでもってその四つの石の巨大な原石を所有しているのが光剛石十二家なの、ウチもその中の一つ」
「この石が鎧になる・・・・・・」 圭介はほとんど聞いてなかった。
「あ、言っとくけど、鎧の形は私の趣味じゃないよ?使う人間によって形は決まっているの、自分で着ていて嫌になるのよねー、すっごい醜悪だもん、最初着たときは鏡見て吐きそうになったよ」 圭介の反応など気にもせずに唯は自分の意見を述べた。
「この間、俺の前に現れたのも・・・・・・」
「ワタシ」
「なんで殴り飛ばすのさ、俺、あのあとしばらく気を失っていたんだよ?」
「何言ってんの!無抵抗の人に暴力をふるって!悪い弟にはお仕置きしなきゃ!」
「喧嘩を売ってきたのは向こうだよ?」
「理由になりません!」
「うぐ・・・・・・」 圭介は言葉に詰まった。
「ま、それはさて置き」
「さて置くんかい」
「本題に入ろうか」 唯は冊子を取り出した。
「それは・・・・・・?」
それは高校のパンフレットだった、表紙には金色で『星笠学園』と書かれていた。
「まさか彼がポーカーだったなんて・・・。どうしてわかったの?」
警察関係の人が撤収し始めた頃、彼女が信じられないといった表情でそう言ったので、俺は言ってやったんだ。
「彼はポーカーなんかじゃないよ?彼はただの殺人鬼だ。・・・そんな事、君が一番わかっているんじゃないのかい?」
彼女は一瞬、目を見開き、動きが止まった。しかしすぐに照れくさそうにボリボリと頭をかき始めると、「バレちまった?」と苦笑いをしたのだった。
今回の事件の概要はこうだ。
大泥棒"ポーカー”からの予告状。
神出鬼没で、大胆不敵。一度狙った獲物は絶対に逃さない。今、全国で最も警察が業を煮やしている彼の今回の狙いは、ここ、財堂財閥の当主こと"財堂重盛”の大豪邸に先日エジプトから渡って来た『クフ王の仮面』。
財堂は金にものを言わせて厳重な警備を敷き、更に全国から優秀な刑事を寄せ集めたのだが、全てが意味を成さなかった。
『クフ王の仮面』が置いてあった部屋が何者かによって爆破され、その場にいた財堂重盛を含めた5人の命が失われた。その時点では、仮面が盗まれたのか、それとも爆発によって粉々になってしまったのかは、ハッキリとしなかった。
そこへ登場したのが、この俺。この大豪邸の付近をウロウロしていた所で外で警備していた人に捕らえられたのだ。俺は無実を証明したが、中々信用してもらえなかった。
でもまぁ、無理もない。だって、この大豪邸は海の真ん中に浮かぶ小さな島に聳え立っているのですから。俺みたいな一般人がいる事自体が不自然すぎるのだ。
しかし、そのお陰で豪邸内へと進入する事には成功した。
事件現場では、ここに呼び寄せられていた刑事が連れて来た高校生探偵が色々探っていた。――が、彼が事件を解決するまで待ってるなんて事は俺には出来ない。
その後その流れで――説明するのが面倒くさいので――俺は事件を解決した。
「さてと、じゃーまず、何から話そうか?」
「・・・・・・」 圭介は絶句していた。無理も無い、朝っぱらからとても人とは思えない二体の化け物に襲われ、一体に助けられ、人目のつかない所に連れてかれ、そいつが鎧を脱ぐと、正体は圭介がよく知っている人物だった。
「まだ夢の中にいるのかな・・・・・・いてっ!」 圭介は自分の頬をつねった、すると反対側の頬を濃紺の甲殻男の正体がニヤニヤ笑いながら強めにつねった。
「現実だよー」 先程とは打って変わって明るい声だった。
濃紺の甲殻男の正体は唯だった。甲殻男ではなく、甲殻女だった。
「あなたは誰ですか?」 圭介はまだこれが現実であるとは認めていなかった。
「私がわからない?ショックだー、弟に存在を忘れられるなんてー」
「そうじゃなくて!さっきの甲殻みたいな鎧は?黒いヤツは一体何者?」 圭介は怒鳴った、唯の鎧はもう無い、先程、抱えていた圭介を下ろすと、青い光の粒になって消えてしまった。そこから唯が現れたのだ。
「あれは青卯石から作った鎧、黒いヤツは緑午石から作った剣を持った礼羽家の人間だよー」 唯はサラリと言ってのけた。
「・・・・・・」
「ふふふ、解らないよね、じゃあ、一から教えていくからね、光剛石十二家の事を」 唯は楽しそうだった。
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