粕切諒斗(かすぎり りょうと)は星笠学園に通う一年生である。きわめて端整な顔立ちをしているので、生徒、教師を問わず女性に人気がある。当然、男性には嫌われている上に、いつでも不機嫌そうな顔をしているので、敵が増える一方だった。女子生徒たちにとってはそんなところもたまらないようだが。
「たくっ、貴重な昼休みだっていうのに・・・・・・」ただでさえふてぶてしい面を一層しかめて屋上へと向かった。体育会系の上級生から呼び出しをくらったのだ。ブツブツ言いながら階段を上っている途中で携帯が鳴った。
「聡か?例のこと分かったのかよ?」第一声とは思えない不機嫌な声を出した。
「分からないと電話しちゃいけないのかよー?つれないなぁー、諒斗クンはー」聡と呼ばれる電話の相手は、対照的な陽気な声を出した。
諒斗は電話を切ろうとした、聡はそれを感じたのか、あわてて諒斗をなだめた。
「お、おい、待てって!ホントに分かったんだよ!」
「だったら手短に言え。」諒斗の声に一層、不機嫌さが増した。
「まぁ、まず賀東と幕ノ内は確実だな、さっそく両家の当主が校長に会いにいったらしい」
「やっぱりか・・・・・・」諒斗はこぶしを握り締めた、不機嫌な顔が一転、覚悟を決めたような顔に変わった。
「平野は・・・・・・?」諒斗はさらに聡に問いただした。
「確証はないけど、あの家のパワフルな女当主が息子を入学させないわけないと思うぜ?」
「そうか・・・・・・有難う、聡」
「いいってことよ、我が友よ」二人の会話が終わった。
数分後、諒斗は屋上で聞くに見苦しいいちゃもんをつけてきた上級生五人を十数秒で片付けると、生徒手帳に挟んである写真を眺めた、そこには幼い頃の自分と、その横で満面の笑みを浮かべる男の子が写っていた。
「お前はどうすんだ?秋志郎・・・・・・」諒斗は写真の中の笑顔の男の子に話しかけた、その顔は友人の聡すら見たことが無い、嬉しさと悲しさを分けた、複雑な顔だった。
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