「あ、お帰り、圭介」 玄関に姉の唯がいた。
「どうしたの、服が泥だらけじゃない」
「なんでもないよ、転んだだけ」 圭介は二階の自分の部屋に向かった。
自分の部屋に行く前に、兄の部屋と父の部屋の前を通った。二人は部屋にいない、いつものことである。
草薙家は五人家族。父幸一、母美奈、長男丈、長女唯、次男圭介となっている。しかし、圭介は本当は草薙家の人間ではない、三年前のある日、偶然に知ってしまった。知りたくなかった現実を・・・・・・
現実を知った後、圭介は家族を避け始めた。もちろん、家族は何とかしようと試みたが圭介は心を閉ざしたままだった。
幸一は地質学を教える大学教授、丈は漫画家である。二人とも仕事が順調で家にいない、その事もまた、圭介の落ち込みに拍車をかけた。
中一の冬を過ぎてから圭介は外で喧嘩に明け暮れるようになった、よその学校の生徒との喧嘩がほとんどなので担任は知らなかった。しかし、家族は気づいていた、ここ二、三年で一体、圭介は何回「転んだ」と言っただろうか?
「何やってんだろ・・・・・・」 圭介はベッドに寝転んだ、先程、甲殻男に殴られた腹がまだ痛む、それもそのはず、あの後圭介は一時間も気を失っていたのだ、しかし、今はそんなことはどうでもよかった、
「アイツはいったい誰なんだ?どうして俺の名前を知ってたんだ?」 痛みを忘れようとしながら、圭介は眠りについた・・・・・・
一階で電話が鳴った。唯が取った。
「はい、草薙でございます」
「白御風と申します。幸一さんはいらっしゃいますかな?」
唯はあやうく電話を落としそうになった、来るべき時が来てしまった・・・・・・
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