甲殻男との戦闘から三日後、圭介は中学校生活最後の夏休みを迎えた。夏休みといっても、部活に所属していなければ塾にも通っていない圭介にとっては退屈以外の何物でもない、おまけに、荒くれ者の圭介は学校では孤高の存在で、友達と呼べるものはいない。ほぼ金髪に近い茶髪に、やや日に焼けた肌は彼の見た目の怖さをより一層引き立てた、顔は決して悪い方ではなく、むしろ良い方なのだが、女子生徒からは怖がられていた。
圭介には目標や夢が無かった。同級生は将来の進路について真剣に悩んでいるというのに、彼は何もしなかった。彼の目の前にはぼんやりとした未来も無かった。
気が付くと、圭介は町外れの草むらに来ていた。時間は午前七時、辺りに深い霧が立ち込めていた。
ふと、圭介は何かを感じた、臭いだ。鉄のような臭いが突然、鼻についた。
「な、何なんだ・・・・・・?」
続いて、何かを見た。少し先に青い煙のようなものが見えた。圭介はその場所へと向かった。
突然、何かに躓いた、圭介は膝と腹をしたたか打った。足元を見ると石が落ちていた、それは青く濁っていて、丸みを帯びていた。圭介は幼い頃、家族で海に行った時に見つけた「海ガラス」というものを思い出した。波に洗われて角が丸くなったガラスのことだ。それはあまりにも綺麗で、圭介は泳ぐのも忘れて集めていた、家族も一緒になって集めた、誰が一番多く集めることが出来るか競っていた・・・・・・
「 ! 」
懐かしい思い出は消えた、青い煙の中から人影が現れた。
「あ、あ、あぁ・・・・・・」 圭介はその場に崩れ落ちた。目の前に信じられない光景があった。
甲殻男がいた。しかし、この前に会った奴とは似ているようで違う、もっと醜悪で、悪魔に見えた、漆黒の体に、血が流れているような模様が浮かび上がり、背中には巨大な翼、顔は、顔と呼べるようなものではない、醜く、恐ろしい、この世のものとは思えない。
「な、なん・・・・・・あ、うぁ・・・・・・」もはや圭介は悲鳴を上げることも出来なかった。
「ミツケタ、クサナギケ、ヨロイヲ、マトイシイチゾク・・・・・・」
「え・・・・・・?」
甲殻男が話しかけた、しかし、圭介に対してではなかった、圭介の後ろに三日前の濃紺の甲殻男が立っていた・・・・・・二人の甲殻男が対峙した。
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